福利厚生制度
労働者の自己保健義務とは?詳しい内容と企業側で必要な取り組み
多くのビジネスパーソンは毎年1回、会社の定期健康診断を受けています。
定期健康診断は、企業が自身の従業員に対して行わなければならない義務の1つですが、実は働く側も定期健康診断を受けなければならない義務があります。
これを自己保健義務と言いますが、あまり聞き馴染みがないという方も多いのではないでしょうか。
今回は、企業に勤めるビジネスパーソンの自己保健義務とはどのようなものかをわかりやすくご紹介していきます。
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目次
労働者の自己保健義務とは
自己保健義務は労働安全衛生法によって定められている、働く人が負う義務のことです。
自己保健義務を簡単に説明すると「労働者は、安全に働くために自分の健康を管理する必要があり、なおかつ維持するために努めましょう」といった内容です。
自己保健義務と混同されやすい言葉で「自己安全義務」「安全配慮義務」の2つがあります。
「自己保健義務」と「自己安全義務」の違い、また「安全配慮義務」との違いについてそれぞれご紹介します。
自己安全義務との違い
自己安全義務は「業務にあたる際、安全に留意すること」を指します。
例えば業務にあたる際に、会社の規定でヘルメットの着用が義務付けられていれば、働く人はその規定に従わなければなりません。
自己安全義務は法令で定められた用語ではありませんが、根拠となる法令は労働安全衛生法第4条にあたります。
第4条の内容については後述しますが、内容をわかりやすく説明すると「働く人は企業の定めた安全規定を守りましょう」といった内容です。
一方、自己保健義務は「健康を維持し、改善に努めること」を目的としています。
自己安全義務と異なるのは、自己保健義務の発生範囲が業務中に限らない点です。
自己保健義務は日々の生活や食事にも大きく関係してくるため、働く人は常に健康を意識して、自発的に対策を行う必要があるでしょう。
企業の安全配慮義務との違い
安全配慮義務は、労働契約法第5条によって使用者(雇用者)に課せられた義務のことです。
労働契約法第5条の内容は次の通りです。
(労働者の安全への配慮)
第五条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
法的な罰則は規定されていないものの、労働災害時に義務を果たさなかった場合は民法715条により使用者責任を問われる可能性があります。
また安全配慮義務は、身体的な安全だけでなくメンタルヘルスも配慮の対象です。
そのため製造業や建築業のような労働災害の起きやすい職種に限らず、あらゆる業種で義務の適用が可能と考えておきましょう。
自己保健義務と異なる点は、義務の対象が「働く人」か「雇っている側」かの違いです。
会社に属して働いている人に対して定めているのが「自己保健義務」、雇用側が守るべき内容を定めているのが「安全配慮義務」なのです。
自己保健義務の根拠となる「労働安全衛生法」の内容
自己保健義務の根拠となるのは、労働安全衛生法です。
労働安全衛生法のうち、自己保健義務と密接に関わる法律の条文を3つ紹介します。
参考:https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-1/hor1-1-1-7-0.htm
労働安全衛生法第69条2項
1つ目は、自己保健義務の大前提となる、労働安全衛生法第69条2項です。
「労働者は、前項の事業者が講ずる措置を利用して、その健康の保持増進に努めるものとする。」
労働安全衛生法第69条1項には、事業者が労働者の健康教育や健康相談などの労働者の健康保持・増進を図るために努めることが書かれています。
同2項には、健康の保持・増進に労働者が努めるよう記載されています。
労働安全衛生法第66条5項
2つ目は、労働安全衛生法第66条5項です。
「労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。」
労働者は、事業者が実施する健康診断を受けなければならない旨が記載されています。
事業者が指定した医師または歯科医師による健康診断を受けたくない場合でも、医療機関などで健康診断を受診しなくてはなりません。
指定した以外の医師または歯科医師による、規定の健康診断に相当する内容の健康診断を受けて、診断結果の書面を事業者に提出することに代えてもいいと書かれています。
労働安全衛生法第66条の7第2項
3つ目は、労働安全衛生法第66条の7第2項です。
「労働者は、前条の規定により通知された健康診断の結果及び前項の規定による保健指導を利用して、その健康の保持に努めるものとする。」
前条には、2つ目に紹介した法律のように、事業者が労働者に対して健康診断を受けさせることや結果を記録しておくこと、異常があれば医師などによる意見を聞いたり、健康指導を行ったりするよう努めること、と書かれています。
事業者が努めることを述べてきたものに対し、本項では労働者が、健康診断の結果や保健指導を利用して健康保持に努めるよう記載されています。
3つの条文には、事業者が行う健康診断や健康指導に対して、労働者が受け入れ、健康保持に努める必要があることが示されています。
自己保健義務の具体的な内容
自己保健義務は、言葉そのものは法律に定義されてはいません。しかし、先に紹介した労働安全衛生法などの法律が根拠となり、働く人の自己保健義務を定めています。
根拠となる法律を解説しながら、自己保健義務として取り組む必要がある、具体的な内容を解説します。
健康診断の受診
自己保健義務のうち、健康診断の受診義務は、先に紹介した労働安全衛生法第66条第5項が該当します。
会社が行う健康診断を受けるか、もしくは働く人が自ら健康診断を受けてもいいというものです。
どちらの場合も、会社に健康診断の結果を提出する必要があります。
自覚症状の申告
労働安全衛生法第44条には、健康診断などによる自覚症状及び他覚症状の有無の検査が定められています。
自己保健義務として、心身の不調を自覚したら、医師へ相談しなければなりません。
自覚症状を偽ったり、秘密にしたりしておくことは、自己保健義務違反となります。
事業者による健康管理に関する措置への協力
事業者の健康管理措置に対して、労働者は自己保健義務を果たすため、協力しなければなりません。
会社のルールを守ることや、安全衛生委員会への参加など、事業者への協力の方法は多様です。
私生活における健康管理
自己保健義務は、会社に勤務している時間だけでなく、私生活上の健康管理も含まれています。
生活の乱れが原因で、病気を招くこともあるため、健康管理に努める必要があるのです。
病気の場合に療養に専念する
ケガや病気などで会社を欠勤もしくは休職などをしている場合、従業員は療養に専念し、自己保健義務を果たす必要があります。
労働契約法第3条4項の労働契約上の信義則には、労働契約を守り、誠実な権利行使や義務の履行について書かれています。
労働災害の防止
自己保健義務と、業務中の事故や災害防止を定義した労働安全衛生法第4条の労働災害防止義務とは関連しています。
働く人は、安全を守るために企業が講じている対策や規定を守り、業務中に事故が発生しないよう防止策に協力しなければならないというものです。
自己保健義務に「自己安全義務」が含まれていると考えていいでしょう。
自己保健義務の違反について
企業が定めた安全規定を守らない場合や、健康診断の受診を拒否するなど、働く人が自己保健義務を果たさなかった場合は、自己保健義務の違反にあたると考えられます。
しかし働く人が自己保健義務を果たしていない場合でも、労働者に対しての罰則や罰金などは法的に定められていません。
健康保持や健康保持促進については努力義務のため、法的な強制力も伴わないのです。
そのため、自己保健義務を果たしていないと雇用側が判断した場合でも、その事実のみでは違反者へペナルティを与えたり処分を行ったりすることはできません。
また労働契約法第15条(懲戒)や第16条(解雇)では、いずれも「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」と明記されています。
企業で働く人が自己保健義務を果たしていないと判断できる場合でも、雇用側が懲戒処分や解雇を行うことは難しいケースが多いようです。
ただし自己保健義務の違反内容が悪質であると法的に判断されれば、罰金等のペナルティを課せられる可能性もあるでしょう。
労働者の健康を守るために企業が取り組むべきこと
安全配慮義務でも定められているように、雇用側は働く人の健康のために必要な措置をとらなければなりません。
しかし自己保健義務の意識を高めるためにどのような取り組みを行うべきかは、それぞれの企業が自社の風土や働く人たちのニーズに合わせて考える必要があります。
自己保健義務に関する取り組みの内容は、働く人が安全に働ける環境であることはもちろん、社内規定の整備や業務フローの見直しなどを含め、さまざまな角度から考えることが大切です。
ここでは、自己保健義務の意識を高めるために必要な取り組みについてご紹介します。
自己保健義務を周知する
従業員に自己保健義務を周知することから始めましょう。
従業員の中には、労働安全衛生法に示されている義務が企業にあることを認識はしていても、労働者に守るべき義務、自己保健義務があることを認識していない方もいる可能性があります。
自己保健義務について従業員に周知する場合は、企業独自のルールではないことを示すため、関連する法律の条文・内容を記載したポスター掲示やチラシ配布などを行って周知に努めることが大切です。
身体の健康を維持する取り組み
身体の健康を維持する取り組みとして、健康診断の受診や健康指導を行っているという企業は多いでしょう。
スポーツなどの部活動やレクリエーションなどを通して体を動かす機会を設けることも、自己保健義務推進の取り組みとして効果的です。
リフレッシュ休暇などさまざまな休暇制度を作ったり、休憩スペースや昼寝の制度を設けたりなど、健康維持を目的としたユニークな取り組みを行っている企業もあります。
日常的な運動を促したり休暇を取りやすくしたりする施策以外に、近年では働く人の健康のために食事面でのサポートを行う企業も増えています。
しかし制度を設けるだけでは、参加者が少なかったり、取り組み自体を社員が知らなかったりと自己保健義務に繋がらない可能性もあるでしょう。
定期的に説明会や勉強会を開くといった周知活動を行うことも、自己保健義務の遂行に大切な取り組みの1つです。
ただし、自己保健義務に関する取り組みを実施する場合は、強要したり強制的に参加させたりすることがないよう気をつけなければなりません。
特にスポーツ関係の施策は、体を動かすことが好きな人とそうでない人とで参加意欲が大きく異なるものです。
しっかり運動したい人向けの施策と、自分のペースで手軽に取り組みたい人向けの施策を分けるなど、誰もが自主的に参加できるような工夫が必要です。
こころの健康を維持する取り組み
こころの健康は外側から状態を把握することが難しいため、施策を行う際はより細やかなサポートを必要とします。
メンタル面で不調を感じた時にすぐに相談できるよう、産業医などと連携して専用の相談窓口を作っておきましょう。
またこころの不調が起きにくい職場環境を作ることも、自己保健義務の意識を高めるために重要なポイントです。
例えば年1回の健康診断と同じように、定期的にストレスチェックを実施してこころの健康状態を把握できる仕組みを作るなどです。
働く人たちや職場のストレス状況を定期的に把握することで、職場の抱える課題が小さいうちに対策を講じることができます。
また長時間の勤務や過度な業務負担は、こころの健康状態を悪化させる直接的な原因になる場合があります。
こころの健康維持を考える際は、労働環境は適切かといったことや、長時間の勤務が生じていないかなどにも目を向けてみましょう。
企業の健康への取り組みを支援する福利厚生とは?
自己保健義務への取り組みとして、福利厚生を活用するという方法もあります。
福利厚生は法律で定められた6つを指す法定福利と、それ以外の法定外福利に分けられます。
よく知られている健康関連の福利厚生と言えば、健康診断が挙げられるでしょう。
休暇制度やストレスチェックなども福利厚生にあたります。
福利厚生として取り入れるメリットは、自社の労働者であれば誰でも平等に制度を利用できることと、働く人の費用負担が少なくて済むことです。
スポーツジムなど外部施設の利用料や、部活動費、食事代など、取り組みにかかる費用の一部を会社側が負担することで、社員が日常的に利用しやすい制度にすることができるでしょう。
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手軽に始められて多くの社員が利用しやすい自己保健義務への取り組みといえば、食事サポートではないでしょうか。
体とこころの健康を維持する上で、毎日の食事は欠かせない要素です。しかし節約のために昼食を簡単な食事で済ませたり、食事自体を抜いてしまったりするビジネスパーソンも少なくありません。
また栄養バランスの取れた食事を摂ること自体、一見簡単なようですが毎日となると難しいと感じる人も多いでしょう。
福利厚生としても社員の健康サポートとしても取り入れやすい食事補助は、設置型の社食サービスです。
設置型の社食サービスは社員食堂のように広いスペースや多額の費用が必要ないため、企業側のコストを抑えることができます。
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福利厚生として取り入れることができ、社員は1つ100円〜という低価格で購入が可能なため、健康維持としても継続しやすい施策になるでしょう。
ランチに追加しやすい食べきりサイズの一品や、メインのおかずになる惣菜などラインナップも豊富なため、社員も楽しみながら健康を維持できるのではないでしょうか。
まとめ
自己保健義務は働く人すべてが負うものですが、罰則などもなく自発的な努力が必要となるため、各々が意識して行わなければなりません。
仕事以外の時間や食事面にも気を配る必要があるため、個人での継続が難しいことが自己保健義務を遂行する上での課題と言えます。
会社側は福利厚生や食事サポートを活用して、自社の社員が自己保健義務を意識しやすい環境づくりを行ってみてはいかがでしょうか。
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