企業の健康経営

-2022.01.31.Mon

改正健康増進法の主な変更ポイントと企業が取るべき対策とは

2020年4月に施行された改正健康増進法では、国民の健康を維持・増進するために、新たに受動喫煙の項目が追加されました。

その背景には、未成年や疾患を持つ人への配慮や、WHOの評価、2020年に行われた東京五輪・パラリンピックなどが影響しているようです。

今回は健康増進法が施行された経緯や、改正した目的をお伝えするとともに、改正健康増進法の変更ポイントについて解説します。

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健康増進法とは?

2003年5月に施行された健康増進法は、国民の健康を総合的に増進するために定められた法律です。

日本は急速に高齢化社会となっていることから、高齢化に伴い患う疾病が変化していきました。疾病の変化は、厚生労働省が公表している年次ごとの死因順位で確認できます。

【死因順位】

1947年2020年
1位全結核悪性新生物
2位肺炎及び気管支炎高血圧性を除く心疾患
3位胃腸炎老衰
4位脳血管疾患脳血管疾患
5位精神病の記載がない老衰肺炎

近年、社会全体の高齢化に伴い、治療を行うよりも自然な死を受け入れるといった考え方の変化があるのではないかといわれています。

老衰を除く現代の死因順位を見る限り、国民が健康を意識して日常生活を送ることで、健康寿命が延びると考えられるでしょう。

そうした背景から健康増進法では、長寿大国である日本国民は、栄養バランスのとれた食事を摂ったり定期的に健康診断を受診したりと、生涯にわたって健康増進に努めなければならないとしています。

国民だけでなく企業も、従業員の健康を維持・増進することを求めるように改正されました。

改正健康増進法の主な変更点

2020年4月に施行した改正健康増進法では、「受動喫煙の防止」という目的が加わっています。

受動喫煙は、煙草を吸っている本人だけでなく、近くにいる非喫煙者にも影響を与えることを知っている人は多いでしょう。特に、未成年や疾患をもつ人に影響が大きく、小児の喘息や乳幼児突然死症候群(SIDS)や、肺がんや循環器疾患も受動喫煙と因果関係があるようです。

アメリカでは受動喫煙防止条約を施行したあと、急性心筋梗塞を患う人が少なくなったという報告もあり、未成年や疾患を持つ人の健康を守るためにも、改正健康増進法の施行は必要といえます。

また、世界保健機関(WHO)から日本のタバコ対策が最低レベルと評価されたことも改正健康増進法が施行された要因といわれています。

今回の改正健康増進法は、WHOの評価基準を1段階上げるものとなっており、受動喫煙対策の第一歩と考えられるでしょう。

さらに、2020年に行われた東京五輪・パラリンピックでは世界中の人々が集まるため、受動喫煙対策を世界中へアピールすると同時に、国民の健康意識を高めるために、改正健康増進法を施行したともいわれてます。

改正健康増進法「7つ」の変更ポイント

改正健康増進法では、受動喫煙の対策をすることが国民の健康増進に寄与するとされているため、適切な対策をすることが企業に求められています。

改正健康増進法の変更ポイントについて詳しく見ていきましょう。

管理権原者の責務を明示

「国」「地方公共団体」「該当する施設」の管理責任者は、受動喫煙を起こさないよう、施設環境を整えることが、改正健康増進法で義務づけられました。

一方、喫煙者に対しても受動喫煙を意識することが、改正健康増進法では求められています。

改正健康増進法の施行前は、施設管理者の受動喫煙対策が「努力義務」でした。

ところが、受動喫煙を起こさずに喫煙できる場所が明確化されていなかったため、改正健康増進法施行前は、以下のような課題が浮き彫りになりました。

・非喫煙者が望まない受動喫煙をしてしまう
・喫煙者自身も意図せず受動喫煙をさせてしまう

そこで、受動喫煙対策のため、改正健康増進法では喫煙場所を明確にし、施設管理者に対して受動喫煙の防止対策を義務化しています。

屋内は原則禁煙に

改正健康増進法では、多くの人が利用する施設での屋内喫煙が「原則禁止」です。学校や病院、飲食店、会社などのオフィス、娯楽施設、体育施設、宿泊施設などが対象となっています。

ここでのポイントは、利用客だけでなく従業員だけが使用する場所やオフィスも「原則禁煙」になることです。また、住居・ベランダ・老人ホームなど人が住む施設の個室は対象外となることも覚えておきましょう。

施設の類型ごとに、禁煙措置や喫煙場所を特定

改正健康増進法では、施設によって設置できる喫煙室の種類が異なります。改正健康増進法において、施設の屋内に設置できる喫煙室は下記の4種類です。

・喫煙専用室
・指定たばこ専用喫煙室
・喫煙可能室
・喫煙目的室

それぞれ喫煙室の種類によって、飲食の可否や加熱式たばこのみ可能などの条件があり、状況に合わせて種類を選ぶ必要があります。

また、施設についても、4種類に分類されます。

・第一種施設
・第二種施設
・小規模飲食店
・喫煙目的施設

第一種施設は「原則屋内禁煙」、第二種施設と小規模飲食店、喫煙目的施設では条件を満たすことで喫煙場所を設置できます。

喫煙室設置に関する、技術基準を明示

改正健康増進法によって、喫煙室を設置するためには一定の技術基準をクリアすることが定められています。改正健康増進法では、以下のような条件を定めており、条件を満たす喫煙室にしなければなりません。

【出入口付近の気流】
喫煙室の外から中へ流れる空気が0.2m毎秒以上。

【たばこの煙の流出】
喫煙室の中から外へたばこの煙や蒸気が流れないように、壁や天井などでエリアを隔離。

【たばこの煙の排出】
たばこの煙が屋外や外部に排気できる構造。

喫煙可能な場所の標識掲示の義務付け

施設の中に喫煙室を設けるのであれば、喫煙室と施設の出入口に標識を掲示することが、改正健康増進法では義務付けられています。施設全体で喫煙できるようにする場合は、施設の出入口に標識を掲示するだけです。

施設に喫煙室があることを示す標識も定められているため、適切な標識を掲示することが改正健康増進法では定められています。

20歳未満の喫煙エリアの立ち入り禁止

改正健康増進法において、喫煙エリアはお客さんや従業員に関わらず、20歳未満の人は立ち入り禁止となっています。

施設の中に喫煙室を設ける場合、未成年者が屋内の禁煙エリアへ立ち入ることは可能ですが、喫煙室への立ち入りはできません。

20歳未満の人が喫煙エリアに入れないことも、標識への掲示が必要です。

喫煙エリアには20歳未満の人が一切入れないため、施設全体を喫煙室にするのであれば、店頭の標識に記載する必要があるでしょう。

違反時の罰則規定

改正健康増進法に触れると、行政指導や行政処分、罰則(過料の徴収)といった処罰を受ける可能性があります。

違反通報などで違反が発覚した場合、まずは都道府県知事による指導が行われます。指導により改善されない場合、勧告・命令となり、最終的に罰則の適用になるかもしれません。

50万円以下の罰金を課される場合もあるため、しっかりと法令遵守しましょう。

改正健康増進法における罰則対象者は、喫煙者を含んだ「すべての人」と、施設の所有者や事実上現場管理を行っている管理者などの「管理権原者」に分けられます。

例えば、喫煙禁止場所で喫煙した「すべての人」、類似する標識を掲示した「すべての人」、標識を汚損した「すべての人」が、指導や勧告を受けたり罰金を科せられたりします。

ここでのポイントは標識に関する違反についても罰則を受ける点です。

喫煙の有無に限らず、標識の偽りや汚損は、改正健康増進法に触れるため覚えておきましょう。

改正健康増進法の対象施設

改正健康増進法における対象施設は、大きく4つに分けられます。

それぞれの施設について具体的に見ていきましょう。

第一種施設

改正健康増進法における第一種施設は、疾患を持つ人が通う病院や薬局などの医療施設、未成年者が集まる学校や児童福祉施設、行政機関の庁舎といったさまざまな人がたくさん集まる公共施設が該当します。

第一種施設は改正健康増進法において一番規制が強く、敷地内が原則禁煙です。

ただし、敷地内であっても屋外であれば、一定要件を満たすことで「指定屋外喫煙所」を設置できます。

第二種施設

改正健康増進法における第二種施設は、事務所、工場、ホテル、旅館、飲食店といった第一種施設に当てはまらない施設で、原則屋内での喫煙は禁止です。

基準をクリアした喫煙専用室を設置すると屋内での喫煙が可能になります。

規模が小さい飲食店

改正健康増進法において小規模の飲食店は、第二種施設に分類されます。小規模の飲食店はすぐに受動喫煙対策ができない場合も少なくありません。そのため、改正健康増進法では喫煙可能場所を示す掲示をすることで、屋内での喫煙を認めています。

小規模の飲食店とは、以下の条件を満たす第二種施設です。

・個人または中小企業が経営
・客席面積が100平方メートル以下
・2020年4月1日時点で、現に存する飲食店であること
・資本金5,000万円以下であること

事業を行う場合は、所在地のある保健所に必要事項を届け出ましょう。

喫煙目的施設

改正健康増進法における喫煙目的施設には、以下のような要件を満たす施設が該当します。

・たばこの対面販売
・主食とする食事の無提供
・たばこ・喫煙器具の販売
・飲食を目的としていない施設

バーやスナック、たばこ販売店、公衆喫煙所などの施設が該当しますが、室内に喫煙場所を設置する場合は、前述した「喫煙室設置に関する技術基準」を満たさなければなりません。

屋外は規制対象外ですが、受動喫煙対策への配慮が求められています。

改正健康増進法に対応するために企業が取るべき対策

改正健康増進法に合わせて企業ができる対策について考えてみましょう。

オフィス内は原則禁煙に

改正健康増進法において、オフィスは原則的に喫煙禁止です。煙がほぼ出ない「加熱式たばこ(電子たばこ)」も対象となっています。

商品によってはニコチンやたばこの葉が含まれるものがあり、呼気に有害物質が含まれているようです。

煙が少ないため無害という話を聞いた人もいるかもしれませんが、受動喫煙のリスクはゼロではないため、屋内禁煙の対象となっています。

オフィス内に喫煙所を作る時は、改正健康増進法における喫煙室設置に関する技術基準をクリアした「喫煙専用室」、もしくは「加熱式たばこ専用喫煙室」が必要です。

基準を満たした喫煙所を設置

施設内に喫煙所を設置するのであれば、施設の分類に合わせて屋外喫煙所、もしくは屋内喫煙所のいずれかを選びます。

第一種施設では屋外喫煙所のみ。第二種施設では屋外・屋内ともに設置可能です。

喫煙室を設置する場合は、改正健康増進法における施設と喫煙室の要件を必ず確認しましょう。

労働条件に受動喫煙対策を明記

改正健康増進法により、厚生労働省は職場での受動喫煙対策について明示することを企業に義務付けました。

自社のホームページや求人などに、受動喫煙対策について記載する必要があります。

喫煙ルールの周知徹底

施設内に喫煙室を設ける時、喫煙室と施設の主な出入り口の目立つ場所に、「ポスター」や「標識」を貼らなければなりません。

・施設内に喫煙できるところがある
・どのような喫煙スペースか

上記を示す必要があり、掲示内容に誤りがあると、指導や罰則を受ける可能性があります。

受動喫煙対策で従業員の健康を守ろう

受動喫煙対策をしっかりと行うことで、従業員の健康を守ることができます。

従業員が健康的になることで、仕事へのパフォーマンスや生産性が高まり、結果として企業の売上アップにつながる可能性が充分にあるでしょう。

また、従業員の健康を意識することは、社内だけでなく社外へのアピールにもなります。従業員の定着率アップや離職率低下といった効果も期待できるでしょう。

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