企業の健康経営

-2024.02.20.Tue

デスクワークで要注意!『VDT症候群』のリスクと対策

スポーツ庁によると、日本では成人が平日に座っている時間は1日7時間で、世界20カ国のなかで最も長いそうです。

最近、全就業人口の5人に1人が事務職といわれる日本のビジネス社会では、仕事でパソコンやスマートフォンを使用することが増えています。

しかし、パソコンの画面や携帯電話の液晶画面を集中して見続けると「VDT症候群」を発症する可能性もあり、注意が必要です。

今回は、デスクワークで注意すべき『VDT症候群』のリスクと対策について解説します。

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VDT症候群とは

「VDT症候群」とは、「Visual Display Terminal Syndrome」の略称で、テクノストレス眼症、IT眼症などの別名があります。

具体的には、コンピュータのディスプレイや携帯電話の液晶画面など表示機器を使用した作業を長時間続けることで目や身体、心に生じる諸症状のことです。

昨今の情報社会では、仕事でもプライベートでもパソコンやスマートフォンの画面を長時間見続けることも多く、VDT症候群を発症するリスクは確実に高まっています。

総務省が2020年(令和2年)に実施した「通信利用動向調査」では、日本のスマートフォン利用者は、20代~30代が9割以上、40~50代が8割以上にのぼると報告されています。

労働層に限らず、今や日本の老若男女がVDT症候群を発症するリスクを抱えているのです。

VDT作業とは

VDT作業とは、厚生労働省の定義によると、ディスプレイやキーボードなどで構成されるコンピュータの文字や図形・グラフィックや動画を表示する出力装置を使用した作業のことです。

たとえば、VDT機器を使用してデータの検索や入力、文章や画像の作成・編集、プログラミングやモニターの監視などがこれに該当します。

VDT症候群の症状

VDT作業を長時間続けることによって、VDT症候群を発症するリスクは高まります。

そんなVDT症候群の主な症状は、次の3つです。

<眼の主な症状>
・眼精疲労
・眼の乾き(ドライアイ)
・眼のかすみ
・眼の充血
・視力の低下

<身体の主な症状>
・頭痛
・肩こり
・首・腰・背中の痛み
・首・肩・背中・腰のだるさ

<精神の主な症状>
・食欲減退
・不安感
・イライラ
・抑うつ症状

VDT症候群になる原因

VDT症候群になる原因は、大きく分けて4つあります。

1つは、眼の使い過ぎです。眼が物を認識する際は、瞳の奥にあるレンズ状の水晶体の厚さを調整します。

水晶体を覆っている毛様体筋は、近くを見る時は筋肉を縮めて水晶体を厚くし、遠くを見るときは逆に緩めてピントを合わせているのです。

VDT作業は、近くにあるパソコンやスマートフォンの画面を見ながらおこなう必要があります。

つまり、毛様体筋は常に眼の水晶体を薄くするため、突っ張っている状態を続けなければなりません。

このような毛様体筋の緊張状態が眼の疲労を引き起こし、VDT症候群が発症するのです。

2つ目は、まばたきの減少です。

生き物の眼の表面は涙で覆われ、まばたきで涙が全体に行き渡る仕組みになっています。

ところが、VDT作業に集中してまばたきの回数が減ると、涙が眼の全体を覆わない状態が続くため、乾燥してしまうのです。

これは、いわゆるドライアイといわれるVDT症候群の症状のひとつで、慢性化すると感染症や角膜炎・結膜炎など眼の不調をもたらす可能性があります。

3つ目は、座りすぎによる活動量の低下です。

長時間同じ姿勢で座っていると、血行が悪くなります。

常態化すれば肩こりや頭痛・腰痛などのVDT症候群を発症するほか、代謝や循環機能が低下し、生活習慣病や冠動脈疾患を引き起こすおそれもあるため、注意が必要です。

そして4つ目として、うつむき過ぎによる姿勢の悪化も、VDT症候群の原因になります。

成人の頭は約4~6kgと重く、頭が2cm前に出るだけで首の脊椎にかかる負担は2倍、4cm前になると5倍にまで増えます。

このような首が前に傾く姿勢が長期化して頭を支える筋肉に過度の負担をかけ、脊椎が変形した状態がストレートネックです。

さらに、この4つの原因による体調不良が長く続けば大きなストレスがかかり、VDT症候群の精神的な症状の発症につながります。

知っておくべき「VDTガイドライン」

昨今のIT技術の発展によって、VDT作業は職場に広く導入されました。

しかし、それに伴い、作業に長時間携わる従業員は身体的・精神的疲労を感じる割合が高いとの調査結果もあり、労働衛生上の課題となっています。

日本では、職場にコンピュータが導入された1980年代半ば頃より、長時間のVDT作業によって発症するVDT症候群について警鐘が鳴らされました。

当時の労働省(現:厚生労働省)は、1985年12月に「VDT作業のための労働衛生上の指針について」を定め、行政指導をスタートさせています。

その後、情報処理・マイクロエレクトロニクスなどを中心とする技術革新によってIT化が急激に進み、さらに多くの職場でVDT機器を活用するようになりました。

当然、労働者もVDT機器を使用する作業に関わる時間が増え、最近はノート型パソコンやタブレット、スマートフォンなどVDT機器の多様化も進んでいます。

厚生労働省では、先述のVDT作業の指針を全面的に改め、2002年に「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を定めました。

VDT症候群の発症を予防するためには、企業のVDT作業をおこなう現場でガイドラインに基づいた労働衛生管理が必要です。

対象者

VDT症候群の発症予防を目的とする「労働衛生管理のためのガイドライン」の作業の対象は、「特定の業務に4時間以上かかる作業」および「それ以外の作業」の2つです。

また、これらの作業にかかる時間や拘束性が健康に影響することをふまえ、作業内容や使用する情報機器、作業場所などについても対策を立てる必要があるとされています。

作業をする環境の整備

VDT症候群の発症を予防する目的でガイドラインで定めている「作業をする環境整備」の管理項目は、照明と採光の2つです。

この2項目では、照明・採光とグレア対策について管理基準が設けられています。

<照明・採光>
・ディスプレイ画面の照度は500ルクス以下
・書類・キーボードの照度は300ルクス以上
・周囲と画面・書類・キーボードとの明るさの差をなくす
・照明器具や窓が画面に映らないようにする

<グレア対策>※グレア…太陽光や照明などの物を見えづらくするまぶしさのこと
・照明が明るい場合は光を抑えるカバーを取り付ける
・間接照明を用いてグレアを低減する
・ディスプレイの位置や傾きを調整する
・グレア対策を施したディスプレイや反射防御フィルムを使用する

照明や採光は、VDT症候群の発症を予防するために整える必要のある最低限の環境ともいえます。

企業は、オフィスの各部門における照明・採光・グレアなどの作業環境を確認し、基準に満たない場合は改善していきましょう。

機器やオフィス家具の整備

ガイドラインでは、VDT症候群の発症を予防するための「機器やオフィス家具の整備」に関し、次の6つについて作業者に最適な機器を選択するよう指導しています。

1.デスクトップ型機器
2.ノート型機器
3.タブレット・スマートフォン等
4.ソフトウェア
5.椅子
6.机・作業台

作業の仕方への注意

ガイドラインでは、VDT症候群の発症を予防するための作業の仕方についても注意喚起しています。

VDT作業の仕方で定められているのは「作業時間・作業姿勢」の2項目で、概要は次の通りです。

<作業時間>
・1回につき作業時間が1時間以上、連続しないようにする
・作業の合間に10~15分間程度の休止時間を設定する
・連続作業時間の合間に1~2回程度の小休止を作る
・テレワークでも20分ごとに20秒間の小休止を取り、20フィート(6m)先を見る「20-20-20ルール」を実践する

<作業姿勢>
・眼と画面は、40cm以上の距離を空ける
・眼の高さと画面上部が同じ高さまたは少し下になるよう調節する
・ディスプレイに表示される文字のフォント・サイズに配慮する
・座位に立位を交えた作業を取り入れる
・背もたれで傾きを調整し、椅子と大腿部膝側側面の間に手指が入る程度のゆとりを持たせ、椅子に深く腰掛けて無理な圧力を加えないようにする
・肘の角度は90度以上に保ち、腕を置く肘掛けやマウス操作で手首を固定する台などを設置する
・足裏全体が床に接する程度の足下のスペースを確保する

作業姿勢を正しく保てているかどうかの判断は、作業者一人では難しいかもしれません。

企業の担当者は、従業員がVDT症候群を発症しないよう、オフィス内のディスプレイや椅子・机の配置などの労働環境を確認しましょう。

健康状態の管理

ガイドラインでは、VDT症候群の発症を予防する目的でVDT作業者の健康状態を管理する際は、3つの措置を講じるよう推奨しています。

1.健康診断
作業配置前と年1回の定期健診で、がん科学的検査や筋骨格系に関する検査およびVDT症候群の自覚症状の有無に関する検査を導入する

2.健康相談
・作業者が健康について相談しやすく適切なアドバイスを受けられるよう努める
・プライバシーの保護に考慮し、メンタルヘルス・健康上の不安・慢性疲労・ストレスや自己管理の方法など、健康相談の機会を設ける

3.職場体操
就業前後または就業中にアクティブ・レストとして、体操・ストレッチ・リラクゼーション・軽い運動等を適切におこない、静的筋緊張・拘束姿勢・疲労・ストレスを解消する

オフィス内の相談窓口の設置や作業の合間の軽いストレッチの推奨は、VDT症候群の予防だけでなく健康経営にもつながりますので、積極的に取り入れていきましょう。

対策に関する教育

ガイドラインでは、VDT症候群対策の一環として、情報機器作業者と管理者に対し目標や方法について作業者や管理者を教育するよう推奨しています。

<作業者・管理者向け教育内容>
・情報機器ガイドラインの概要
・作業管理(計画・方法・作業姿勢・ストレッチなど)
・作業環境管理(機器の種類や特徴、注意点、影響など)
・健康管理(VDT作業の健康への影響)

自社のVDT症候群の発症を予防するためには、オフィス内の作業者と管理者の双方におけるガイドラインの概要や注意点の正しい理解が不可欠です。

テレワークにおいても作業環境の整備が重要

VDT症候群を予防するためには、テレワークにおいても作業管理の整備が必要です。

ガイドラインでは企業に対し、自社従業員が自宅でオフィスと同レベルの作業環境を整えるよう推奨しています。

<作業環境の概要>
1.部屋:作業用の十分な空間の確保、転倒予防のための整理整頓
2.窓:空気の入れ換え・ダルム対策
3.机・椅子・PC:適切に配置し無理のない姿勢を保つ
4.照明:十分な明るさの確保
5.室温・湿度:作業に適した温度調整

テレワークはオフィス内での作業と異なり、企業側が従業員のVDT作業を確認するのは容易ではありません。

だからこそ、テレワークは、オフィスよりVDT症候群を発症しやすい環境となる可能性があります。

企業は、定期的に従業員にヒアリングをおこなって、VDT症候群の自覚症状の有無を把握するようにしましょう。

従業員のVDT症候群を防ぐために企業側が注意すべき点とは

従業員のVDT症候群を防ぐために企業側が注意すべき点は、大きく分けて5つあります。

1.健康状態の把握
企業に義務化されているメンタルヘルスチェックや定期健診を実施し、ミーティングなどでVDT症候群の自覚症状を含めて各従業員にヒアリングをおこない、心身の健康状態を把握する

2.自己管理を促す
先の健康診断やメンタルヘルスチェックの結果やヒアリングの内容から、各従業員に対し作業環境の整備や作業姿勢に関する自己管理を促進する

3.環境の整備
オフィス内またはリモートワーク時における情報機器や照明・室温や湿度など、VDT作業に適した環境を整備する

4.働き方の管理
作業時間や小休止、ストレッチや体操など、情報機器を使用した従業員の働き方について健康上、無理がないよう管理する

5.産業医の巡視などによって意見を仰ぐ
従業員の健康状態の把握や健康管理とともに、必要に応じて産業医などの巡視によって現状の改善に向けて専門的な意見を仰ぐ

繁忙期には、業務の遂行・完了を優先して小休止を取らずにVDT作業を続けてしまう従業員もいるかもしれません。

自社従業員にVDT症候群を発症さないためには、企業が従業員に注意喚起を促すとともに、積極的に現状把握や健康管理に努めるという姿勢が重要です。

まとめ

今や小学校でもパソコンの授業があり、6年生の約14.2%がスマートフォンを携帯している時代です。

IT・デジタル技術は今後も進み、オフィスでVDT作業に携わる従業員が増えて作業時間も長くなるとの予測もあり、VDT症候群の発症リスクはますます高くなるでしょう。

企業が労働生産性を維持するためには、VDT症候群の予防だけでなく健康経営を見すえた従業員の健康管理が大切です。

食の面から従業員の健康を管理する目的で、福利厚生を充実させるのもよいでしょう。

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