企業の健康経営

-2023.10.25.Wed

健康経営の目標を決定する際に押さえておきたいポイント&達成のコツ

今や、日本でも多くの企業が取り組んでいる健康経営。

ブランディングの一環にもなる健康経営優良法人の認定を視野に入れ、自社にも導入したいと考えている企業も多いのではないでしょうか。

健康経営によって従業員の健康改善に取り組み、確実に成果を得るためには、自社に適した目標を設定することが重要です。

今回は、健康経営で目標を決定する際に押さえておきたいポイントや、確実に達成させるためのコツについてくわしく解説します。

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健康経営とは

健康経営とは、企業が従業員等の健康管理を経営的な視点でとらえ、その実践により「人財」である従業員の健康維持や増進、企業の生産性向上を図る経営手法のことです。

1992年にアメリカの臨床心理学者ロバート・H・ローゼン氏が提唱し、日本では2014年以降に健康経営銘柄の取り組みが開始されました。

既に10年近くが経とうとしている現在、日本では社会情勢の急激な変化や少子高齢化による労働人口の減少などの影響で、健康経営を重視する傾向にあります。

今後、企業が新たな付加価値や企業価値を創出するには、従業員の健康作りや生活習慣の見直し・改善に関する目標を定め、健康経営を組織的に実施すべきでしょう。

健康経営の目標を決める前に押さえておくべきこと

健康経営は、全従業員で取り組める目標を決めると効果的です。

とはいえ、目標を決めて実施したからといって、すぐに効果を発揮するとは限りません。

確実に成果を上げるためには、しっかりした下準備も必要です。

ここでは、健康経営の目標を決める前に押さえておくべき4つのポイントを紹介します。

企業の現状を把握する

健康経営の目標を決める前に、自社で実施する健康診断の結果や社内アンケート・ストレスチェックなどを活用し、企業の現状を把握しましょう。

実際、健康経営優良法人の認定にも、ストレスチェックの項目があります。

自社に適した属性アプローチで集計単位を検討すれば、分析結果から課題を発見できます。

若年層や勤続年数の少ない従業員が対人関係でトラブルを抱えている場合は、人事面談や上司のヒアリングで課題を明確にしていきましょう。

健康経営を推進する目的を明確にする

2つ目のポイントは、健康経営を推進する目的を明確にすることです。

漠然とした目標のまま実践し、組織全体の意識がバラバラでは大きな成果は期待できません。

十分な導入効果を得るためにも、組織として健康経営を導入する背景や経緯を明文化し、周知を徹底しましょう。

・健康経営を導入する理由
・導入によって実現したいこと
・中心となって推進する部署またはチーム
・長期的な活動計画の内容

なお、実践のスタート時期が遅れないよう、この時点では大枠を提示する程度に留めておくのもポイントです。

経営層が率先して健康経営に取り組む

経営層が率先して健康経営に取り組む姿勢を示すのも、目標を決める前に押さえておくべき大事なポイントです。

特に、健康経営優良法人への認定を検討している場合は、中・大規模企業のいずれも社内外への健康経営宣言が必須要件に含まれます。

だからこそ、経営層が健康経営の意義や効果・重要性を正しく認識し、経営理念として積極的に社内外に発信すべきです。

社長自ら「健康経営宣言」を文書化し、自社従業員はもちろん、取引先やクライアント・投資家など営業活動に関わるステークホルダーや求職者を想定し、ホームページなどでアピールしましょう。

健康経営を進める体制を作る

目標を設定する前に、健康経営を進める体制も整えておくべきです。

手始めとして、どの部署が活動を統括するのかを決めるとよいでしょう。兼務する場合は、負担の程度を事前に考慮するのもポイントです。

一方、プロジェクトチームを新たに発足する場合は、産業医や保健師などの専門家を外部人材として社内のメンバーに加えると、取り組み内容も充実するでしょう。

さらに、担当部署やチームに「健康経営アドバイザー」の研修を受講させることや、保険事業や先進事例にくわしい「健康経営エキスパートアドバイザー」の資格保持者に協力してもらうことで、取り組みの質はさらに高まります。

健康経営の目標を設定するポイント

準備ができたら、健康経営の目標をしっかりと設定することが重要です。

十分な効果を得るためにも、目標を設定する際の3つのポイントを押さえておきましょう。

数値を用いた具体的な目標を決める

まず1つ目のポイントは、従業員が理解しやすいよう数値を用いて具体的な目標を決めましょう。

たとえば、医療費や喫煙の本数、有給職率や残業時間などの現状を明示し、健康経営によってどの程度まで割合を減らしたいのかという目標を可視化します。

<例>
・現状1人あたりの医療費:10,000円/月 ⇒ 2年後:7,000円/月
・オフィス内の喫煙率:25% ⇒ 3年後:5%
・有給取得率:70% ⇒ 2年後:80%
・残業時間:20時間/月 ⇒ 1年後:15時間以内/月

無理のない数値で目標を明確化すれば、従業員の健康経営を実施するモチベーションも向上するでしょう。


目標の期限を決める

目標の期限を決めるのも重要なポイントです。

対象が身近であればなおさら期限を細かく設定し、予定通りに施策が進捗していることを確認しやすい工夫を取り入れましょう。

日々の生活に関連する目標に期限を設けることで、従業員も健康経営に取り組みやすくなります。

具体的には、毎日の昼食や休憩時間の喫煙、残業時間、飲酒量、睡眠時間、有給休暇などを対象とする目標です。

たとえば、「オフィス内の喫煙者が50%だから喫煙率を25%以下にする」という目標を掲げた場合は、毎年5%ずつ喫煙率を低減できれば5年後に目標を達成できます。

この時、「5年後」という大きな期限に加えて1年ごとの細かい期限「5%」を設定し、計画が順調に運んでいるかを目視できるようにすると効果的です。

従って、目標は数値化しやすいよう細分化して設定するとよいでしょう。

例として、自社のストレスチェックの結果から「高ストレス者の減少」を目標にする場合は、「残業時間の減少」「ストレスチェックの回数の増加」など、数値を入れやすい目標を細かく設定すると管理しやすくなります。

最初から高い目標にしすぎない

最初から高い目標にしすぎないのも、大事なポイントです。

特に、健康経営優良法人を目指す場合は、長期的に取り組む必要もあります。

だからこそ、習慣としてすぐに実践しやすい目標を掲げ、確実に達成させることを繰り返しながら目標を少しずつ高くしていきましょう。

たとえば、オフィス内では階段を使う、昼休みに簡単なストレッチをするなど、毎日の仕事で取り入れても負担にならない目標からスタートすると無理なく始められます。

さらに、運動時間や内容ごとに達成できたらポイントを付与できるような健康管理アプリを導入すれば、従業員達のモチベーションも高まるでしょう。

実際に健康経営の目標を設定した事例

この章では、実際に健康経営の目標を設定した3つの事例を紹介します。

いずれも、健康経営優良法人の認定を7年連続で受けている企業ですので、これから認定を検討されている場合は、ぜひ参考にしてください。

キリンホールディングス株式会社

食品製造会社のキリンホールディングス株式会社は、従業員29,515名を抱える上場企業です。

同社は、従業員が存分に能力を発揮できる環境作りと、社会的価値・健康価値の両立によるCSV経営を目指しています。

重点課題1の「従業員生産性低下防止や事故発生防止」として、プレゼンティーズムの測定やストレスチェックの実施・集計・分析・フィードバックによって、施策の向上に努めています。

また、重点課題2の「生活習慣病」については、毎年、飲酒習慣スクリーニングテストでセルフチェックを実施し、秋には適正飲酒啓発を目的とする研修を実施中です。

その結果、2019年に64だった従業員エンゲージメント調査が、2021年には70に向上しました。

オムロンヘルスケア株式会社

電気機器製造業のオムロンヘルスケア株式会社は、グループを含め総勢4791名の従業員を抱え、元気に生き生きと働ける企業を目標にしています。

重要課題1の「生活習慣病等の重症化予防」では、自社に「かくれ高血圧リスク者」が存在したため、生活習慣の見直しと行動内容に関する専用アプリを導入しました。

重要課題2の「喫煙率低下」については、卒煙セミナーの実施やメルマガの配信、保健師とのOne to Oneなどを実践しています。

同社では、リテラシーと健康習慣が身につくWell-beingな企業として健康施策を開発しながら健康経営を推進中です。

株式会社イトーキ

株式会社イトーキは、2,012名の従業員を抱える多角経営企業です。

重点課題1の「ストレス関連疾患」では、調査結果が全国平均以下だったため、管理職のライン研修や対面診断等を実施し、在宅時のコミュニケーションの向上に努めています。

また、重要課題2の「生産性・事故防止予防」として、下記の自社・外部サービスを導入しました。

<自社サービス>
・スタンディングワーク・立ち会議の実施
・歩数アップを目的とする中階段の設置
・瞑想するための休憩室の設置

<外部サービス>
・シフトランチ制度の導入
・余暇を充実させる福利厚生の導入
・睡眠セミナーの導入

その結果、同社のストレススコアは、2021年11月の72.8から2022年8月には73.6に、ロコモスコアは、2021年11月の57から2022年8月には57.8まで改善されました。

健康経営の目標達成に向けて重要なこと

この章では、健康経営の目標達成に向けて、3つの重要ポイントを解説します。

目標に向かってPDCAを回す

健康経営を実践する際は、目標に向かってPDCAを回しましょう。

数値目標「KPI」を活用し、途中経過のわかるプロセス評価と健康そのものをとらえるアウトカム評価を設定すると効果的です。

アウトカムKPIよりも早く変化の出やすいプロセスKPIを設定することで、変化の過程がよくわかります。

設定項目の例は、下記のとおりです。

<プロセスKPI>
・健康診断の再受診率
・保健指導の導入回数
・各種研修の参加率

<アウトカムKPI>
・喫煙率やBMIの数値
・有所見者率
・ストレスチェック高ストレス者率
・休職者率

KPIを設定したら、自社に適した中長期的な目標を設定します。

PDCAで定期的に確認し、問題のある箇所は随時、数値を修正しながら目標を達成させましょう。

健康経営に取り組む意義を周知する

健康経営に取り組む意義を周知するのも、目標を達成するためには不可欠です。

KPIを設定しても、指標が多すぎれば管理も難しく長続きしません。そこで、一見して理解できるようKPIを盛り込んだ戦略マップを作成すると、取り組む意義や重要性がわかりやすくなります。

戦略マップでは、プロセスKPIとアウトカムKPIに加え、パフォーマンスKPIやアウトプットKPIも図式化しましょう。

このときの注意点は、健康経営が経営手法であることからもわかるように、組織として何を実現したいのか、組織全体にどんなインパクトを与えたいのかなど、経営の視点から作成することです。

経営層とディスカッションしながらの作成が難しい場合は、経営理念や健康宣言を読み返し、定義を明確にしてから指標に落とし込みましょう。

企業には、健康経営の先にある部門や人材配置などの体制に関する組織目標と、さらにその先には売上や新規参入を目指す分野に関する事業目標があります。

事業目標をしっかり支えるためにも、自社に適した戦略マップを作成し、全従業員に組織として健康経営に取り組む意義を周知していきましょう。

多くの従業員を巻き込む

健康経営の目標を達成するには、多くの従業員を巻き込むのも大事なポイントです。

従業員は、健康面で何かしらの不安を抱えている人と、現段階では特に支障のない人とに大別できます。

健康面で問題のない場合は、健康経営を他人事のように捉えているかもしれません。

しかし、実際には未病や予防という観点から従業員の支持を得られるかどうかが、健康経営の成果に大きく左右します。

だからこそ、どれだけ多くの従業員を巻き込めるかを検討しなければなりません。

具体的なアプローチとしては、次の2つをおすすめします。

1.動機を与えて行動を変容させる
「健康」の語を「イベントで楽しむ」「ポイントが付与される」など、健康の重要性を「楽しい」「お得感」などの動機に置き換えて運動習慣や食生活を変える方法です。
例:ウォーキングイベント、ヘルシーランチなど

2.知識を増やしてモチベーションを作る
従業員の知らない日常生活で役立つ健康に関する豆知識を配信し、健康プログラムに対するモチベーションを向上させる方法です。
例:健康セミナー、アプリ配信、オンライン動画など

「どう周知して参加を促すか」という仕掛け作りをおこない、生活になじむ健康知識を紹介すれば、従業員にも「面白そうだからやってみよう」という気持ちが芽生えます。

「今から健康面に配慮すれば、将来こんないいことがある」というメリットとともに、効果的なアプローチで多くの従業員を巻き込んでいきましょう。

まとめ

健康経営は、成果が出るまでに時間のかかることもあり、しっかりと目標を立てて計画的に推進する必要があります。

また、多くの従業員を巻き込むには、取り組みやすく途中経過のわかりやすい目標でなければなりません。

生活に溶け込みやすい取り組みとしては、食の福利厚生を充実させて従業員の食生活を見直すのも効果的です。

オフィスで野菜

たとえば、設置型の社食サービス「OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)」でしたら手軽に導入でき、従業員は栄養バランスのよい食事をオフィス内でいつでも食べられます。

すぐに取り組める目標から少しずつハードルを上げ、健康経営で自社の生産性やワークエンゲージメントを向上させましょう。

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