福利厚生制度
【福利厚生の基礎解説】法定福利厚生とは?種類や費用について詳しく解説
就職して初めて、「福利厚生」という言葉の意味を理解した方もいらっしゃるのではないでしょうか。
法律で義務づけられている法定福利厚生は、なにも保険関係だけではありません。
終身雇用から気軽に転職する時代へとシフトしている昨今、バックオフィスの企業担当者はもちろん、社会人の常識として法定福利厚生に関する理解を深めても損はないでしょう。
そこで今回は、福利厚生の基礎的な内容を含め、法定福利厚生の種類や費用について解説します。
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目次
福利厚生とは
福利厚生とは、企業が給料や賞与などの賃金のほかに、従業員の生活や健康をサポートする制度のことです。
身近なものとして健康保険や厚生年金などがありますが、実際は種類も多岐にわたります。
自社の福利厚生を充実させれば、各方面から従業員をサポートできるでしょう。
法定福利厚生とは
法定福利厚生とは、「法定」と書かれている通り、企業が負担することを法律で義務づけられている福利厚生のことです。
したがって、法定福利厚生を導入していない企業は違法とされ、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金を科せられます。
昨今の情報社会では、社会保険に加入していないなど法定福利厚生違反の企業に関する情報も直ちに広まり、社会的な信用を失うでしょう。
法定福利厚生は、企業にとって従業員に最低限の生活面をサポートするとともに、自社の社会的信頼の基盤ともいえます。
法定福利厚生と法定外福利厚生の違い
福利厚生には、法定福利厚生のほかに法定外福利厚生があります。
法定外福利厚生は、企業の負担を法律で定めている法定福利厚生とは異なり、企業が自由に設定できる福利厚生です。
導入の有無は企業の任意ですので、法定外福利厚生が導入されていないことを理由に、企業に罰則が科せられることはありません。
法定福利厚生の種類
法定福利厚生にはさまざまな種類があります。ここでは主要な17種類について、簡単に紹介します。
健康保険
健康保険は、ドイツの疾病保険法を参考に1926年に施行され、社会保険方式で運営される医療保険のうち、健康保険法に基づく法定福利厚生です。
具体的には、従業員とその家族が業務中の災害以外で罹患や負傷・出産や死亡などがあった場合に保険給付をおこないます。
この健康保険の目的は、従業員とその家族の生活を安定させ、福祉を向上させることです。
育児中や体調を崩しやすい従業員にとっては、不可欠なものといえるでしょう。
厚生年金保険
厚生年金は、従業員の老齢や障害・死亡時に保険給付をおこない、遺族の生活安定と福祉の向上を目的とする法定福利厚生です。
所得比例型の公的年金で、日本政府が厚生年金法に基づいて運営しています。
一般的に、厚生年金保険は健康保険と同時進行するため、適用される事業所の要件は、健康保険とほぼ同様です。
雇用保険
雇用保険は、従業員が失業した場合や、雇用の継続が困難な事態が生じた場合に給付される法定福利厚生です。
従業員が職業に必要な教育訓練を受けた場合や育児で必要な給付をおこない、従業員の生活と雇用の安定を図り、就職の促進や職業の安定を目的としています。
「離職=失業」ではないため、企業との雇用関係が存続している間は、給与の支払いがなくても従業員は被保険者として扱われ、突然のリストラなどにも適用できる福利厚生です。
雇用保険は、事業ごとに一般・農林水産・清酒製造・建設で分類され、各事業の保険料率と労使の負担割合は異なりますので注意しましょう。
介護保険
介護保険は、加齢に伴う心身の変化による疾病などで要介護状態になった際、必要に応じて自立した日常生活を送れるよう保健医療・福祉を提供する法定福利厚生です。
65歳以上を対象に要介護状態または要支援状態に分け、それぞれ5段階にさらに細分化し、介護度に応じて必要なサービスにかかる費用の一部を保障します。
たとえば、入浴・排泄・食事等の介護やリハビリテーションなどの機能訓練、看護・療養上の管理や医療などの利用に適用可能です。
少子高齢化の日本社会にとって、今後なくてはならない法定福利厚生といえるでしょう。
労災保険
労災保険は、従業員が業務上または通勤で傷病した際に必要な保険給付をおこない、被災した従業員の社会復帰の促進を目的とする法定福利厚生です。
企業の業種や規模、アルバイトやパートタイマーなどの雇用形態を問わず、原則として1人でも労働者を使用している事業者すべてに適用されます。
傷病によって就労できない期間に適用できますので、従業員にとってはいざという時に頼れる法定福利厚生といえるでしょう。
なお、労働者災害補償保険法の一部改正で、令和2年9月1日以降、保険給付額は会社の全賃金を合算した額によって決定されるようになりました。
同改正により、現在は労災認定の可否についても、労働時間やストレスなどすべての会社の負荷を総合的に勘案して判断されています。
子ども・子育て拠出金
子ども・子育て拠出金は、厚生年金の加入者を対象とする法定福利厚生です。
「子ども・子育て」の語が含まれていますが、厚生年金の加入者全員が対象となるため、子どもの有無や既婚・未婚を問わず、全従業員に対し負担義務があります。
2015年に「児童手当拠出金」から名称が変更されて以降、当時0.15%だった拠出金率は引き上げを繰り返し、2024年時点では2倍以上の0.36%です。
ちなみに、子ども・子育て拠出金は、児童手当や児童クラブ、妊婦健診などさまざまな事業に活用されています。
健康診断
健康診断は、企業が定期的に従業員の健康状態をチェックし、成人病などの病気を早期発見・治療を目的に提供する法定福利厚生です。
なお、従業員が業務で健康を害する可能性のある業種に関わる企業は、別途、特定の検査項目の健診も受診させる必要があります。
2014年の労働安全衛生法の改正により、従業員のストレスチェック制度が義務化されましたので、健康診断は従業員の健康状態の維持に不可欠な福利厚生といえるでしょう。
年次有給休暇
年次有給休暇は、労働基準法の定める従業員の権利であるとともに、雇用日から起算して6ヶ月間勤務を継続し、すべての労働日の8割以上を出勤した場合に付与される法定福利厚生です。
6ヶ月を経過した日に10日、その後20日を上限に日数が加算されます。
毎年、最低5日の取得義務はあるものの、消化しきれない休暇は翌年への繰り越しも可能です。
なお、法定外福利厚生の特別休暇とは異なりますので注意しましょう。
生理休暇
生理休暇は、労働基準法で定められている法定休暇で、実質的に法定福利厚生として取り扱っている企業も多いようです。
有給・無給についての定めはなく、賃金の支払いは企業の任意とされています。
ちなみに、2020年度の厚生労働省の調査では、生理休暇を有給としている事業所の割合は29.0%で、このうち65.6%は全期間100%を支給しているとの結果でした。
2007年には42.8%の企業が有給として扱っていましたが、2020年には29%に減少しています。
女性従業員にとっては、ぜひとも有給にしてほしい福利厚生といえるでしょう。
出生時育児休業
出生時育児休業は、2022年に改正された育児介護休業法の一環でスタートした法定福利厚生です。
産後パパ育休との通称で、子どもの出生後8週間の間に最大4週間の休業を取得できます。
出産した女性は産後の8週間が産後休業にあたるため、主に男性が使用できる制度です。
上限の4週間のなかで2回に分割して取得できますので、上手に活用しましょう。
この期間中の給与率は、受給要件を満たしている場合は原則として67%、出産から180日以降は50%です。
出生時育児休業は、2025年には実質100%の給付を目指していますので、今後、日本の少子高齢化社会を支える法定福利厚生といえるでしょう。
育児休業
育児休業は、育児・介護休業法で定められ、原則1歳未満の子どもを養育する休暇制度で、多くの企業が法定福利厚生として取り扱っています。
法定外福利厚生の育児休暇とは異なり、1歳未満の子どもを養育していれば、勤務先に制度がなくても利用できる制度です。
昨今は、出産後も仕事を続ける女性が多く、ほかの育児関連の法定福利厚生ともに取得できるため、育児と仕事を両立したい従業員から喜ばれる福利厚生といえるでしょう。
産前産後休業
産前産後休業とは、出産予定日から起算して6週間前と出産後の8週間に取得できる休暇のことです。
多くの企業が法定福利厚生として取り扱っており、本人の体調によっては期間を短縮できます。
雇用形態や入社年数などの取得要件は、特に定められていません。
ただし、産後休業は、本人がたとえ元気であっても最低42日間の取得義務があります。
原則的に休業中の給与の支給はありませんが、国や自治体で給与の50〜70%程度の手当や給付金を受けられる保障制度を設けていますので、活用するとよいでしょう。
子の看護休暇
子の看護休暇は、労働基準法で定められ、企業に申請すると1年間に5日間、子どもが2人以上の場合は10日間を限度に取得できる制度です。
多くの企業が、法定福利厚生として取り扱っており、有給・無給の判断は企業が任意に決められます。
ちなみに、2021年に厚生労働省が実施した「雇用均等基本調査」では、65.1%が無給、27.5%が有給、7.4%が一部有給として扱っているとの結果でした。
育児・介護のための短時間勤務
育児・介護のための短時間勤務は育児・介護休業法で定められ、法定福利厚生として取り扱っている企業が多いようです。
育児のための短時間勤務は、3歳未満の子どものいる従業員が申請した場合に、1日の労働時間を6時間に短縮できます。
一方、介護のための短時間勤務は、2週間以上の要介護状態にある家族の介護が対象です。
この福利厚生は、該当する家族1人あたりにつき連続する3年以上の期間内に、少なくとも2回以上利用できます。
利用中は、通常労働時間の75%程度の給与が支給されますが、従業員がプライベートの大変な時期に仕事と両立するためには不可欠の福利厚生といえるでしょう。
介護休暇
介護休暇は、労働基準法の年次有給休暇とは別に取得できます。
2週間以上の期間に、常時介護を要する状態にある家族の介護や世話をするための法定休暇です。
昨今の少子高齢化社会では、政府も取得を推奨しており、多くの企業が法定福利厚生として導入しています。
この介護休暇は、ケアマネージャーとの打合せや通院の付き添い、介護サービスの手続き代行などにも利用できて便利です。
ただし、入社して6ヶ月未満または1週間の労働日数が2日以下の従業員は、対象外となりますので注意しましょう。
介護休業
介護休業は、育児・介護休業法で定められ、仕事と家族の介護とを両立させるために一定の期間休業できる福利厚生で、多くの企業が法定福利厚生として取り扱っています。
短期間の休暇である介護休暇にくらべて、介護休業は、仕事と両立させるための体制を整えることを主眼とする福利厚生です。
厚生労働省の雇用動向調査では、現在は、1年間に約7.3万人が介護離職しています。
以前、介護によって収入源がなくなり、介護後に転職しても離職前の年収のおよそ半分に減額されるなどの社会問題が話題にのぼりました。
今後、介護休業は介護休暇と同様に、企業が積極的に従業員に取得を推奨すべき福利厚生といえるでしょう。
公民権に関わる休暇
公民権に関わる休暇とは、労働基準法に定められ、民主主義社会で選挙や政治活動への参加など、政治的な権利行使のために従業員が仕事を休む際に利用できる制度です。
このほか、裁判員制度で裁判員に選ばれた場合にも活用できます。
多くの企業は、ほかの法定休暇と同様に、法定福利厚生として取り扱っているようです。
休暇中の賃金の支給は特に義務づけられていませんが、制度の趣旨を考慮すると、賃金を支給するほうが社会的な信頼性は高まるでしょう。
法定福利厚生による費用負担の目安
法定福利厚生による費用負担については、企業と従業員とで折半する場合と企業が全額負担する場合とがあります。
<労使折半の法定福利厚生>
・健康保険料
・厚生年金保険料
・介護保険料(40歳以上)
<企業全額負担の法定外福利厚生>
・労災保険(業種によって保険料率が異なる)
・子ども・子育て拠出金
・健康診断
金額の目安としては、従業員1人あたりにかかる法定福利厚生の目安は、おおむね現金給与総額の15〜20%前後と考えておくとよいでしょう。
企業が任意で決められる福利厚生を有給にすれば、その分、費用の負担が増えますので、導入前の十分な検討が必要です。
法定福利費と福利厚生費との違い
法定福利費と福利厚生費との違いについて説明します。
法定福利費とは、企業など事業主が法律の規定により負担する健康保険や厚生年金保険などの保険料、子ども・子育て拠出金などのことです。
一方、福利厚生費は、新年会や社員旅行・慶弔金など、企業が任意で導入する法定外福利厚生を含めた費用になります。
まとめ
法定福利厚生は、法律で義務づけられ、企業が従業員やその家族の生活を支える必要最低限の福利厚生です。
だからこそ、企業が自由に設定できる法定外福利厚生で従業員からニーズの高い福利厚生を導入すれば、競合他社との差別化を図り社会的にもアピールできます。
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