福利厚生制度
福利厚生の不利益変更とは?注意すべき条件やポイントを解説
不況の長引く昨今、自社の経営を存続させるため、改善策の策定を迫られている企業も多いでしょう。
しかし、その施策の一環で、従業員の給与の引き下げや福利厚生の廃止など、労働条件を今までより不利なものにすれば、不利益変更になるでしょう。
福利厚生は、企業側が従業員とその家族に給与以外の報酬として提供するため、変更する内容次第では与える影響が大きくなります。
後でトラブルとならないよう、今回は、福利厚生の不利益変更と注意すべきポイントを中心に解説しましょう。
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目次
不利益変更とは
不利益変更とは、企業側が労働条件を従業員に不利な内容へと変更することで、「adverse changes」と英訳されます。
福利厚生など就業規則の変更に関連する法律は、下記のとおりです。
<労働契約法>
第8条:労働者および使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。 |
第9条:使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。 |
第10条:(一部抜粋)使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。 |
参考:e-GOV法令検索「労働契約法(平成19年法率第128号)」
原則的に、従業員の合意を得られなければ不利益変更は認められません。
しかし、経営不振を理由に、給与の減額や福利厚生施設などを決断せざるを得ないケースもあるでしょう。
法律ではこのような事情を鑑み、内容に合理性があれば、従業員の合意なしに例外として労働条件を変更できる旨が規定されています。
不利益変更の合理性の有無については、対象となる項目によって異なるようです。
裁判所の判例を見ると、福利厚生や休職制度などの項目は比較的緩やかに、賃金または退職金の減額は厳しく審理される傾向にあります。
福利厚生は廃止できる?不利益変更に注意
福利厚生は、従業員やその家族のために給与以外で企業が便宜を図る報酬・サービスですので、一方的に廃止すれば大きな影響を与えかねません。
事情はどうであれ、これまで企業が支給していた福利厚生サービスを廃止する行為は、先に述べた不利益変更に該当するおそれがあり、注意が必要です。
不利益変更に罰則はあるか
労働契約法上、福利厚生を廃止するなどの不利益変更に関する罰則規定はありません。
しかし、労働基準法違反に該当するとして、罰金や損害賠償を課せられるケースはあるようです。
例を挙げると、就業規則の周知義務を怠って労働基準法第106条に違反したと判断されれば、同法120条1号の規定によって30万円以下の罰金を課せられます。
就業規則の作成または変更を届け出なかった場合は、同法第89条違反によって、30万円以下の罰金となることもあるため、注意しましょう。
このほか、不利益変更を受けた従業員が訴訟を提起し、労働条件の変更内容の無効や慰謝料の請求など損害賠償の支払いを命じられる可能性があります。
福利厚生の不利益変更の条件
福利厚生の不利益変更に必要な条件は2つあり、合理性の判断基準と推奨される行動例は、下記のとおりです。
条件1.福利厚生の変更に合理性がある |
<合理性の判断>・従業員の受ける不利益がどの程度のものか・福利厚生の変更が本当に必要であるか・変更した複利厚生の内容が妥当かどうか・労働組合などと交渉が進められているか・国内や同業他社の状況に即しているか |
条件2.福利厚生の変更後の内容を従業員に周知する |
<企業が周知する際の行動例>・従業員が見やすい場所に福利厚生の変更内容を掲示する・書面で福利厚生の変更内容を通知・交付する・磁気ディスク等に記録し、常時、確認できるようにする |
労働条件の不利益変更を行う際は、福利厚生に限らず、変更内容の合理性と従業員への周知という2つの条件を同時に満たす必要があります。
福利厚生の変更を進める手順
福利厚生の変更を進める手順は、大きく分けて4つあります。
不利益変更に注意し、各ステップに沿って周到に準備を進めましょう。
就業規則の変更の検討・決定
就業規則に記載されている福利厚生の変更を検討・決定する際は、現状の福利厚生の内容を確認・分析したうえで、対象となる従業員とその範囲を明確にします。
不利益変更となる場合は、合理性の有無や従業員の被る不利益の程度など、経営層は条件を満たすよう配慮しながら慎重に議論を重ねましょう。
経営層の合意に達した変更方針は、人事労務部門の担当者を中心に草案としてまとめます。
労働組合および従業員との協議
従業員に対し、福利厚生の変更内容や理由を丁寧に説明し、理解を得なければなりません。
特に、不利益変更となる場合は、変更内容の代案となる福利厚生を提示して協議を進めるとよいでしょう。
組合のある企業は、対象となる従業員個人ではなく、労働組合と協議します。
労働組合と協議すると、個々の組合員から同意を得られなくても、労働組合の同意による変更が可能です。
いずれにせよ、従業員が福利厚生を変更する真意を十分理解し納得できるよう、企業側は誠意をもって慎重かつ丁寧に説明しましょう。
なお、管理職や経営層は、労働組合の非組合員であることが一般的ですので、個別に合意を得る必要があります。
同意書および労働協約の作成・締結
従業員の同意を得た段階で同意書を作成・締結します。
労働組合と合意した場合は、労働協約書を作成し、両当事者の署名または記名が必要である旨が労働組合法第14条に定義されています。
<労働組合法>
第14条:労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによってその効力を生ずる。 |
参考:e-Gov法令検索「労働組合法」(昭和24年法律第174号)
不利益変更の場合は、後に従業員から訴訟を提起され、裁判事件に発展するリスクも考慮に入れなければなりません。
「口頭で従業員の同意を得た」という主張のほとんどは、裁判所で認められていませんので、書面で同意を得ておきましょう。
不利益変更の不利益の程度が大きい場合は、同意書があっても、裁判所は違法と判断する傾向です。
また、同意書を得る際、福利厚生に関する不利益変更を従業員に十分に説明していないことが判明した場合は、裁判で同意が否認される可能性もあります。
同意書や労働協約書を締結する際は、協議した内容についてもう一度くわしく説明しましょう。
就業規則の変更および届け出の提出
同意書や労働協約書の締結が終わったら、就業規則の福利厚生に関する項目を変更した新しい就業規則を2部作成し、所轄の労働基準監督署への申請が必要です。
労働基準監督署で内容を確認して受理された届け出は、一部が保管され、一部が返却されます。
返却された一部は、最新の就業規則として自社で大切に保管しておきましょう。
従業員の同意が得られない場合はどうなる?
福利厚生の不利益変更は、従業員の同意を得られなくても行うことができます。
本来は、対象となる全ての従業員から合意を得ることが望ましいですが、やむを得ず合意を得られないケースもあるでしょう。
先に述べたように、労働契約法における2つの要件「変更の合理性」および「変更後の就業規則の従業員への周知」を満たす場合は、例外的に不利益変更を行えます。
なお、就業規則の変更は、作成する際と同様に労働基準法第89条および第90条に規定される意見書の届け出が必要です。
<労働基準法>
第89条:常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。 |
第90条:使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。 |
参考:文部科学省 労働基準法(昭和22年法律第49号)
「常時10人以上」のなかには、パートやアルバイトも含まれることに注意しましょう。特に意見のない場合は、その旨を記載しても構いません。
福利厚生の不利益変更をおこなう際は、3章で説明した2つの要件を満たすよう事前にしっかり準備しましょう。
福利厚生の不利益変更を実施する場合に注意すべきポイント
福利厚生の不利益変更を実施する場合は、次の3つのポイントに注意してください。
変更内容の周知の徹底
「福利厚生の不利益変更の条件」でも触れましたが、変更内容に関する情報を全ての従業員が認識できるよう、次の5つの方法を中心に徹底的な広報活動が必要です。
労働基準法第106条では、従業員に対する周知を「各労働者の交付」および「各職場への掲示または備え付け」と定義されています。
また、厚生労働省は、同法を受けて周知方法を下記のように推奨していますので、参考にしましょう。
<厚生労働省「就業規則の周知」>
労働者一人ひとりへの配付、労働者がいつでも見られるような職場の見やすい場所への掲示・備え付け、電子媒体に記録し、それを常時モニター画面等で確認できるようにすること。 |
参考:厚生労働省「就業規則の周知と効力 ③就業規則の周知」
なかには、福利厚生を含めた就業規則の不利益変更を徹底的に周知できなかったため、無効とされたケースもあります。
広報活動は一度だけでなく複数回実施し、どこがどう変わったのか、変更前と変更後を照合できるよう工夫して掲示するのもよいでしょう。
後でトラブルにならないよう、福利厚生で不利益変更を行った箇所を従業員が確認しやすくする工夫も重要です。
従業員のモチベーションの把握
福利厚生の不利益変更は、たとえ手続がスムーズに進んだとしても、従業員にかかるストレスや負担は小さいものではありません。
そこで、変更直後はもちろん、定期的に従業員の企業満足度に関する社内アンケートや1on1ミーティングなどを実施し、次の5項目について増減を把握しましょう。
1.労働生産性
2.社内の売上・利益
3.エンゲージメント(帰属意識)
4.離職率・休職率
5.求人者数
低下が続いていれば、従業員のモチベーションのみならず、企業価値が下がっている可能性もあります。
後で大事に至らないよう定期的にチェックし、必要に応じて従業員の企業満足度が向上するような施策を策定しましょう。
経過措置の設定
福利厚生の不利益変更を行う際は、従業員に対し、経済面だけでなく精神面でも負担をかけることになるため、新制度に慣れるまでの経過措置を設けるのも効果的です。
企業側は、従業員に寄り添い、次の3つを実践するよう努めましょう。
1.廃止された福利厚生の代替案の提示
2.無理のない運用スケジュールの調整
3.新制度運用に関する説明会の実施
従業員が、福利厚生の不利益変更を受け入れられるよう、組織の体制を整えることも大切です。
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この章では、福利厚生を見直す際に注目したい人気サービスを紹介します。
不利益変更の対象となった福利厚生の代替案は、従業員から人気のある衣食住に関連する福利厚生を導入しましょう。
特に、「食」に関する福利厚生は毎日の食生活に関わるものですので、従業員から人気があるだけでなく、健康経営の一環としての効果も期待できます。
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いずれのプランも従業員は1個100円(税込)~利用できますので、福利厚生の不利益変更の代替案にピッタリではないでしょうか。
まとめ
経営不振の企業にとって、自社の存続を賭けた労働条件の不利益変更は、やむを得ないことかもしれません。
しかし、手続の完了後は、従業員の企業満足度や働くモチベーションが低下しないよう配慮し、労働生産性を維持する必要があります。
不利益変更の代替案として、従業員から人気の高い食の福利厚生を導入するのもおすすめです。
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